2014年10月19日日曜日

パリ症候群


 パリ症候群という言葉を聞いたことがあるでしょうか。映画のワンシーンそのままの街並みに、芸術やグルメやファッションが花咲く華の都Paris。大いなる夢と憧れを抱き、期待に胸を膨らませてパリに移り住んでみたものの、家賃が払えるアパルトマンは中東やアフリカ系の移民ばかりが住む汚い貧民街、にわか勉強のフランス語はさっぱり通じず、行く先々でいい加減かつ不親切なフランス人の意地悪に遭い、地下鉄や観光地ではスリや置き引きが横行する。ロマンチックな理想は早々にして脆くも崩れ落ち、半ば鬱状態に陥りあえなく帰国。
 90年代に日本人精神科医がこうした症状をパリ症候群と名付けたはるか以前から、イメージと現実のギャップに打ちのめされた経験を持つ日本人はきっとたくさんいたのでしょう。勿論、良いところだけを駆け足で観て帰る短期の観光旅行では、こうした心境に陥ることはほとんどないでしょうから、やはり住み暮らしてみるのとでは全く状況が異なるということなのでしょう。
 さて、今私が暮らすローマはどうかというと、実は比較してしまうとパリの方が何十倍も暮らし易いというのが偽らざる実感です。東京やニューヨークやパリが大都会とすれば、ローマは大田舎です。ローマは、地理的にも歴史的にもヨーロッパ大陸というよりは、むしろ地中海・北アフリカに分類する方がマッチしており、人々はかたくなで排他的です。時間やルールや秩序を守る意識が極端に薄く、公共インフラやサービス業も最悪です。犬のしつけなんか全然ダメで、道路は糞だらけです。マンマの作ったパスタさえ食べていれば他には何も要らなくて、フレンチ・レストランなんか一軒もありません。仕事を休むことばかり考えています。コネがないと何事もうまくいきません。
 そうは言っても、アフリカを含め通算20年以上にわたる海外生活を続けておりますと、こんな私でも相当な鈍感力を既に身につけているわけでして、不便で不愉快な土地でも、結構へっちゃらなのです。そりゃ、悪いところを具体的に列挙しなさいと言われれば、延々と書き連ねることが出来ます。ひと口に海外生活と言っても、やってみないと解らない苦労は数えきれないくらいあるというのが現実です。ただ、そうした経験を踏まえて、もとよりローマに高い期待値をもって来ていませんし、だから現実にがっかりすることもないのです。
 翻って、私にとってのパリ症候群は、パリに行きたくてしょうがない症候群だったりするのです。これからの季節は、ジビエ(うずらや鹿などの狩猟肉)とかノルマンディの海の幸がことさらに美味しいのです。ワインはやっぱり誰が何と言おうとフランスワインが最上なのです。シテ島からオルセーやルーブルを横目にセーヌ河のほとりを散歩して、シャンゼリゼ沿いのカフェでお茶したいのです。カルチェラタンやマレ地区のお洒落なパッサージュを散策したいのです。ほらね、パリに憧れるでしょ。それが危ない。

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