2016年6月17日金曜日

マナーと秩序?イタリア人の辞書にはない

 「イタリア人の運転は荒っぽい」。
 きっと誰しもがどこかで聞いたことがあるだろう通説です。さて本当のところはどうなのでしょう。
 小生、ローマに暮らし始めて3年が過ぎました。その前はパリに4年。これまでの人生で通算すると外国暮らしは25年、そのうちヨーロッパが19年、アフリカが6年です。右ハンドル、左ハンドル、舗装、未舗装、いろんな国のいろんな道路交通事情を生活体験してきました。
 その上でイタリア人の運転を評価すると、運転そのものは実はそれほど荒くない。ただし、壊滅的にマナーが悪く、何よりも「秩序」という概念がまったく欠落しているとしか思えません。

 そもそも2000年前の古代ローマの遺跡の上にそのまま街を作ってしまったもんだから、道路の幅員は現代の様な車社会を当然のことながら想定しているものではありません。石畳の狭い道が、好き勝手な方向に延びています。だから、一方通行がとても多い。初めての方は、ナビがないと街中の目的地に到達するのはなかなか難しいです。
 次いで、地下に駐車場を備えるアパートがきわめて少ない。これは、地下を掘ってしまうと、すぐに遺跡が出てきちゃって、何年も工事がストップしてしまうもんだから、誰も怖くて掘らないというのがその理由。勢い、路上駐車に頼らざるを得ないわけですけど、車の数だけ駐車スペースがあるはずがないので、いくらコンパクトカーの割合が増えようとも、停めきれない。そうなると、二重駐車が当たり前になります。
 狭い道路で二重駐車が横行すると、当然の様に渋滞を引き起こします。特に、交差点ではまるで「黄色の信号は突っ込んで良い」とでも教わっているのか、後から後からどんどん突っ込んできます。車線が足りなきゃ横に重なってきます。それじゃあ信号が変わったら交差する方の道がつっかえちゃうじゃん。だから渋滞するんだってばと言っても、誰も理解しようとしません。我れ先に行きたいだけなのです。混沌というかカオスというか、そんな表現しか思い浮かばないような状況が日常の中でそこかしこに発生するのです。下の画像のように。
とにかく皆んな、信号は守らない、ウィンカーは出さない、割り込み、飛び出し、急な車線変更なんか当たり前。ともかく車を運転している間中、こちらはあらゆる悪い予測を立てておき、いつ何が起こっても「やっぱりね」と瞬時に対応できるようにしておくことが、イタリアでの運転の秘訣です。きっと止まってくれるだろうなどとタカをくくるのは厳禁です。
 そして、いちばん気をつけなきゃならないのが、オートバイをひっかけてしまわぬこと。これが結構多くて、今日は混んでるなぁと思ったら、たいていは事故による渋滞で、そのほとんどが車とオートバイの接触事故です。だって朝晩のラッシュ時には大量のオートバイ(ほとんどが125cc以上のスクーター)がめまぐるしく車と車の隙間を縫って、渋滞の先頭を形成します。うまくすり抜けて先頭に躍り出たオートバイたちは、今度は皆んなバレンティノ・ロッシ君になってしまいます。そんなに急いだって、どうせ次の信号で止まるんだけどなぁと思いつつ、スクーターとは競わないのがいちばんです。
こんな交通事情でもちょっとは良い面もあって、それは、寛容の心が養われること。いくらカチンとくることがあっても、毎日のことですからだんだんと慣れてきますし、何より個人の力で全てのイタリア人を教育することなんかできないわけですから、許すしかないのです。イライラしそうになる気持ちを静め、寛容の心を発揮した方が、精神衛生上はるかに良いのです。
 時折、運転マナーの悪い車のドライブレコーダー映像がyoutubeなどにアップされているのを見るのですが、逆に日本人のマナーと秩序の水準の高さに驚かされます。ただ、本音を言えば、「いやいや、その程度でいちいち怒ってたらキリがないでしょ。日本人怒りすぎ」と思うレベルのものも沢山あって、ひょっとしたら自身の感覚が一部イタリア化してしまっているのかもしれないと、少し警戒しているところです。

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