2021年11月3日水曜日

池袋東口最後の聖地〜美久仁小路〜

  東京における私の本拠地、つまりホームグラウンドとして呑み歩く街のことだが、若い頃は中野だった。初めて一人暮らししたのも中野。サンモール街からひと筋ふた筋外れた路地で、自家製の梅干しが旨い居酒屋、オカマのママにさんざ誘惑されたバー、怖いけど優しいヤクザのお兄さん、映画に出てくるような着流しのノミ屋の兄さん、パチプロのおじさんなどなど、若いことだけが自慢の私に、大人の世界の入り口を教えてくれたのが中野だ。

 それが、ここ20年くらいは池袋に替わった。生まれも育ちも池袋という友人がいるのがいちばんの理由だが、いっとき私が王子に住んでいた時も、池袋からならタクシーで1000円ちょっとで帰れたので、銀座や新橋などの都心でやるよりも遥かに便利で、時間を気にすることなく安心して呑めたのが大きい。そんな池袋で呑むといえば、知る人ぞ知る豊田屋だの八丈島といった地元民しか来ない昔ながらの千ベロの店がある西口に専ら足を向けていたわけだが、先日、件の友人が、東口に残る最後の聖地を案内してくれた。

 サンシャインを眼前に見上げる「美久仁小路(みくにこうじ)」がそれだ。ビルの隙間に細い糸を垂らしたような100メートルほどしかない路地は、実は戦後の闇市の頃からあった飲み屋街だそうで、昨今すっかりポップになってしまった東口に今なおこんな昔ながらの風情のある通りが残っていること自体が奇跡的だ。果たしてそこでは、人情味のある小さな構えのお店がひっそりと、しかし暖かく地元客を迎えてくれる。私たちがふらっと入ったお店では、私たちよりもずっと先輩の大将と客のおばちゃんたちが、そこそこ長い知り合いみたいに話しかけてくれる。もっとも、私たち自身もすっかり初老のオヤジたちなので、彼らの側からも、見知らぬ若者に対するような警戒心を持たれることもないのだろう。良い場所を教えてもらった。今度はいつになるか分からないけど、是非また行きたい。それまで残っていてね。

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