日本が世界に誇る生粋のカフェ・レーサー、ヤマハSR400が国内向け生産終了となります。1978年に誕生してから44年の間に、累計11万台以上が生み出されたそうだ。そして、3月15日に発売される最終モデルに、エラい勢いで予約が入っているのだとか。
空冷単気筒400cc、スリムなタンクには音叉マーク、低いコンチネンタル・ハンドル、スポークホイールに象徴されるいかにもバイクらしいそのスタイルは、当初からほぼ変わっていない。Final Editionが60万5千円、Final Edition Limitedが74万8千円(いずれも税込)というプライスタグは決して軽くはないけれど、新車でSRを買うことができる最後のチャンスを逃すまいとするファンが多いのも頷ける。
オジさんがSR400を初めて意識したのは17歳くらいのこと。たぶん初期型だったのかな。いわゆる走り屋ブームに火がつき始めたあの当時、よくバイク仲間と一緒に原付を駆って筑波山に走りに行ったもんだ。ワインディングの途中、うっすらと朝靄が残るまだ誰もいないパーキングに、独りSRと佇む二十代後半とおぼしきお兄さんがいた。黒のレザー・ジャケットと、ジッポーで火をつけたタバコがよく似合っていた。少年の私たちが少し遠巻きに、指を咥えるように眺めていると、お兄さんが「エンジンかけてみなよ」と言った。デコンプなんてものを知らない私たち、先にトライした友人は、キックを踏み下ろすことすらできず、強烈なケッチンに足を跳ね返されてすぐに諦めた。次は私の番、キックペダルをコツコツとやって圧縮を確かめ、全体重をかけて一気に踏み込むと、パンパンッと威勢の良い破裂音がキャブトン・マフラーから弾き出された。「ほお、上手いな」と褒めてくれたお兄さんの言葉がすごく嬉しかった。お兄さんはタバコを吸い終えると、小さなピースサインを残してワインディングに消えてしまった。バイクの姿は見えないのに、SRの排気音だけがいつまでも山肌にこだましていた。
11万台のSRが、いったい何人のバイク好きを魅了してきたのだろうか。排ガス規制の強化と共にこの世から姿を消すことになってしまったこの素晴らしいバイク、そして頑なにそのスタイルを守りながら作り続けてきたヤマハというメーカーの努力。こういうものを、日本が残さないで誰が残せるのかと、本当に残念に思います。
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